北斎90歳。今までの全てをかけて絶筆「富士越龍」を描き上げる。絵の中の龍は宝珠(注:1)を持っていない。自分の人生を振り返る北斎。愛する小兎にどれほどの感謝をしていたことか。しかしそれを伝えることなく突然小兎は亡くなってしまった。最後まで北斎はそれを悔やんだ。これが絶筆「富士越龍」の龍が優しい顔で天を向いている理由であり、絶筆の龍でさえも宝珠を持っていない理由である。最後に龍の目を描き入れた途端、北斎は昇天する。嘆き悲しむ娘のお栄。しかし北斎は念願の龍となり、宇宙を悠々と泳いで行く。そこへ光の球が現れる。この瞬間、ようやく北斎は「自分にとっての宝珠は妻の小兎であった」と悟り、小兎と共に宇宙の彼方へと旅立って行く。
注:1 持っていればどんな願いも叶うと言われる宝の珠。一般的に龍が描かれる場合、手に宝珠(水晶玉のような球体)を持った姿が描かれることが多い。